通学中の電車の中で山田詠美さんの小説「僕は勉強ができない」を読んでいる。これも姉の影響だ。影響という言葉は語弊があるか。ただ姉が読み終わった本を僕が借りて読んでいるというだけのことだ。いわゆるいつものこと、日常である。
登場人物の「時田秀美」の気持ちが痛いほどわかる。そんな気がして僕は物事を考える。
「僕はバスケが好きだ。でもあまり上手くはない。練習量のせいではない。悲しいことに僕には才能がないのだ。そのことは僕自身が一番わかっている。さてどうする?いっそのことバスケ部をやめてしまうのはどうだい?やめてしまえば高橋さんと遊びに行けるぞ。交際が始まるかもしれないぞ。いや、待て、まだ3ヶ月だぞ。念願のバスケ部に入ってまだ3ヶ月だぞ。そんな簡単に夢をあきらめていいのか?ん、夢ってなんだ?NBAの選手になれると思っているのなら現実を見ろよ。」
と考えていると駅に着いた。改札口にはいつもどおり高橋さんが待ってくれている。
「そう、僕には才能がない。しかしだ、こんなにかわいい高橋さんが僕のことを待ってくれているのだぞ。バスケ部をやめたらこの時間に高橋さんに会えないんだぞ。とにかく続けてみようではないか。」
邪道な考えだが僕は小さな決意をした。
