朝になっても、何も起きなかった。起きなかったことに、私はどこかで安心していた。安心していることに、少し腹も立った。
見送りに行くつもりで駅まで来たのに、改札の前で足が止まらなかった。気づいたら、新幹線のホームに立っていた。理由はうまく説明できない。
別れ際、彼は笑いながら言った。「お互い30歳まで結婚しなかったら、僕と結婚してね」。本気にはしなかった。忘れもしなかった。
その翌月、私はパリへ発つことになっていた。決まっていたことを、その日は言わなかった。パリの町並みを描いたユトリロが好きだった。中学の頃、似たような絵を描いていたことを、彼はきっと知らない。